2015年12月3日木曜日

現物給与

 賃金は現金で支払わなければならないという大原則があるが、一方、何かの理由で休業補償等をする場合などは実質的な生活の糧をしっかり担保するために、事実上の賃金である「賃金以外の利益」を現物給与とみなして算入する。現実には、どこまでが「福利厚生」でどこからが「現物給与」なのかの判断は難しいところもある。

 現物給与のことを考えた時に思い出したことがある。内田樹著『街場のメディア論』の中に『僕はメディアが「庶民の代表」みたいな顔つき、言葉づかいをしてみせるのはおかしいだろうと思うのです。現に、そうじゃないんだから。むずかしい大学を出て、たいへんな倍率の入社試験に合格して、自在に現場を飛び回り、潤沢な第一次情報を手にしているジャーナリストが、責任逃れをするときに「無知や無能」で武装するというのは、ことの筋目が違うでしょう』とあったことを思い出した。

 これらのことから連想したことは、大阪市が職員の厚生活動のために設置していた共済組合に補助をして、それが職員の利益として還元されているのが「ヤミ給与」だというマスコミの強烈なパッシングのことだった。
 この方式は、古くは鉄鋼労連が春闘相場の足を引っ張るために見かけのベースアップは低く抑え、実質的には裏で第二給与を得ていた方式と通ずるが、ここで私が言いたいのはその是非ではなく、各紙が揃って「うっそー、知らなかった」という立場からキャンペーンを張ったことである。
 私が言いたいことは、新聞各社は揃って同じような共済組合・厚生会を持っていたし、その中には現金給与とあまり変わらない「手当」もいっぱいあったことを私は知っている。家族や友人に新聞社に勤めていた人がいたなら誰もが知っていることである。

 だから、「正々堂々とベースアップをせずに実質的に賃上げをすることの理非」を社会全体に問う問題提起なら何も言わないが、自分たちがいつも享受してきた事柄を、「うっそー、知らなかった」と張ったキャンペーンには嘘があると、内田先生の著書と重ねて私は思う。
 そして、現実には圧倒的な読者をして「公務員は無駄をする」と思い込ませ、記者会見場で言いよどむ管理職員の顔を見て溜飲を下げさせたのである。
 「熱狂するクレーマー」が生み出されてきた一側面ではなかったか。

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