2015年11月27日金曜日

未来の物語

  本というものは限りなく広い別の地や時間を超えた人々の経験を教えてくれるから読む度に何らかの感動があるものだが、今回ばかりはある種のショックを受けて感情と頭の整理がついていかない。
 読むきっかけは、ノーベル文学賞受賞者であるものの私は名前も作品も全く知らなかったことと、その上に代表作がチェルノブイリの記録のようだとどこかで読んでいたことで、ノーベル文学賞を「世界」と言ってよいのかどうかということはあるが、世界で一定の評価のある著者を自分の目で確かめたかったからである。
 2015年ノーベル文学賞受賞者スベトラーナ・アレクシェービッチの著作『チェルノブイリの祈り』岩波現代文庫(1040円+税)。
 チェルノブイリのことは知っていたつもりだったが全く何も知っていなかった。
 チェルノブイリの事故は1986年4月26日。29年も前のこと。
 そして1998年12月にこの本は岩波書店から刊行され、2011年3月11日にフクシマで事故が起こった。
 作品は、チェルノブイリ関係者へのインタビュー集だが、派生的にはベラルーシの田舎度合い、旧ソ連から今日にまで続く強権支配、その下での政治の腐敗、旧ソ連共産党の官僚主義、それらを支えている人間個々人の弱さ等々も興味深いが、やはり私は3.11フクシマ事故との驚くほどの共通性に眼を開かされる。
 被害者は語ることを止め胸にしまおうとし、それに乗じるように為政者は嘘をつく。
 証人たちは次々に死んで行き、世界中が過去の出来事だと信じようとする。
 暗澹たる気分になりながら決して嫌なことではなく、この本に出合えてよかったという満足感の湧いてきた本だった。
 それにしても、1998年岩波刊行から2011年フクシマを経て今日まで、こんな大事な記録がどうして大きく取り上げられてこなかったのだろうか。自分の無知を横に置いておいて不思議である。
 書評や解説を書くつもりはない。ただ絶対に言えることがある。この本は日本人必読の書である。
 未読の方は、2015年ノーベル文学賞受賞者スベトラーナ・アレクシェービッチ著『チェルノブイリの祈り』岩波現代文庫(1040円+税)、絶対に読んでほしい。

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