2015年7月11日土曜日

ギリシャの現実

 今日書く内容は私が調べたものでなく、YAHOOニュースの井上伸氏の記事の要約である。
 自分の責任逃れのためにそうことわるわけではなく、井上伸氏の調査と記事が素晴らしいのでそのことを明らかにしておきたい。
ピケティもEU側を批判している
  まず、日本のマスコミは、ギリシャの年金をはじめとする社会保障への公的支出が多過ぎたので財政危機になったというがそれは事実ではない。
 ギリシャ危機が始まる前の2007-2008年の『公的社会支出(対GDP比)』は21.9%で、フランスやドイツなど11か国よりも少ないし、その後2012-2013年は15位に後退している。
 その中でも特にマスコミで喧伝されている年金の対GDP比も、2009年ではイタリア、フランス、オーストリアよりも低く、特別に恵まれた水準とは到底言えない。
 それよりも、緊縮政策で失業が激増し賃金水準が低下することで年金収支が悪化し、それが現在の財政負担増となっている。
 『年金優遇→財政悪化→緊縮政策が必要』ではなく、『緊縮政策→年金収支悪化→財政悪化』というのが数字の示す事実である。
 次に、マスコミは「ギリシャ人は働かない」ともいうが、2013年のOECDの統計ではギリシャの年間労働時間はメキシコ、韓国についで長く、ヨーロッパでは最長となっている。
 第3に、逆にギリシャの財政で突出して異常なのが軍事費で、2000年から2014年までギリシャの軍事費はEU28か国中のトップで、ドイツの軍事費の2倍以上の税金を注いでいる。
 異常である。無茶苦茶異常である。
 これらはギリシャが望んだものではなく、ドイツやフランスなどEU各国が融資の見返りに戦闘機等の武器購入を押し付けたからである。
 ギリシャにおける汚職や脱税やの問題はあるにはあったが、この無茶苦茶な武器購入が抑制されていたならこんな危機にはなっていなかっただろう。
 「責任者出てこい!」と言ったらギリシャ側で甘い汁を吸った輩も出てくるだろうが、ドイツやフランスにこそそういう輩が潜んでいるのだ。
 4番目に、日本のマスコミは「ギリシャは公務員天国で人数も人件費も多くそれが財政赤字を招いた」と繰り返すが、OECDによる公的部門の人件費対GDP比をみると、国際問題化した2009年のギリシャは北欧やフランスより低く、デンマークの69%となっている。
 さらに、その人件費は緊縮政策で2012年には減っているのに債務は膨らんでいる。つまり、公務員の人件費と債務には何ら因果関係がない。
 全労働力人口に占める公的部門職員の割合も、2009年ではOECD平均だし、2013年にはOECD平均より2.2%も低くなり、ノルウェーの52%でしかない。
 以上、YAHOOニュースには全て根拠となる統計データが付けられている。
 私は、ギリシャ危機よりも日本のマスコミの危機の方がひどいと思うのだが如何だろう。

 ちなみに、日本の公務員の数や人件費はヨーロッパとは比較にならないほど低い水準だが、マスコミは根拠もなく(正確に言えば誤った統計数字を用いて)公務員が多く優遇されていると説いている。
 そして政府は、為替と株価操作のために際限なくお金を投げ入れギリシャと比べられないほど巨額の財政赤字を生みながら、不要のオスプレイ等の軍需品を米国内の相場さえ度外視して購入している。
 ギリシャの旧政権と日本の財政・経済問題を一緒だという気はないが、一握りの政財界の利権共同体が国民の血を吸っている構図はよく似ている。

 なお、「なぜGDP比か」ということを補足的に言えば、GDPはその国の経済力の目安であり、GDP比は経済の健全性の指標だからで、それ故OECDも各種統計に採用している。
 それでも「実感がわかない」なら、一般政府支出(中央政府、州政府、地方政府が管理している公的部門の総支出)で比較すると、ギリシャも日本もOECD平均の8割程度の「小さな政府」になるが、その「小さな政府」の支出の中で公的部門職員の人件費の占める割合はというと、ギリシャはOECD31か国中17位、日本は最下位となっている。

 小泉氏や橋下氏が選挙になると「政治の悪いのは公務員のせいだ」「公務員を減らせば社会は良くなる」と宣伝し、下種っぽく「あいつらは得している」という感情を煽ったが、それらが実体のない嘘であり、そういう口車に乗せられた結果が現在の政治・経済の息詰まりを招いたことは明らかになりつつある。
 いや、まだ十分に明らかにされていないところに現代の問題があるというべきなのだろう。

 マスコミの歪んだ報道は今後とも指摘していきたいが、その前に、マスコミや政権与党が言う判りやすい単純明快な解説には気を付けなければならない。
 国際政治は「借りた金は返せや」というほど単純ではない。
 マスコミの尻馬に乗ってそんなフレーズをいう者は同様に単純すぎる。

4 件のコメント:

  1.  ギリシャ危機の問題は、いずれ日本にも深刻な影響を持つ重大問題になると思っていましたが、メディアから流されるさまざまな情報の中の、何が真実で、何が虚偽なのか見極めがつかずにいました。
     いずれ自分なりの見解が持てるよう調べてみるつもりでいましたが、長谷やんの記事を読み、重要な論点については、考え方の整理ができました。有難うございました。参考にさせてもらいます。

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  2.  私もギリシャ問題の多くについて解らないことばかりで勉強しなければと思っています。
     ただ、テレビが盛んに「ギリシャ旧政権は政権の人気取りのために国民の多数を公務員にして財政を破綻させた」という大宣伝が相当広まっている中で、井上伸氏が公の統計・データを示して「それはおかしい」と教えてくれたことには「鱗が1枚、目から剥がれる」思いがしました。
     つくづく、日本のマスコミはひどいと思います。

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  3. 私もこの記事を読みました。「ギリシャ人は怠け者」というレッテルをはがす記事でしたね。かつての、インド経済が低迷するのはインド人が怠惰だからだというような西欧中心史観の俗論を彷彿とさせるものでした。ただ非常に国際問題として複雑と感じたのは、OECD諸国で年間労働時間が1400時間を切るドイツが、ギリシャに強硬に緊縮策を求めている点です。ギリシャでは労働規制の大緩和もこの間行われてきていますが、濱口桂一郎さんのブログもどうぞ。http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-1d62.html

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  4.  ギリシャの経済危機だけでなくEUも矛盾含みですね。
     いろいろ勉強する課題は沢山ですね。
     歳を理由に逃げ出したい気もありますが、最前線の問題解明にチャレンジするのも楽しいですしね…。

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