2014年12月9日火曜日

沈みゆく大国アメリカ

  多くの日本人は、「東欧や中東の国のことはあまり詳しくは知らないがアメリカのことはだいたい知っている」という気持ちでいないだろうか。
 しかし、その「知ってるつもり」が、ほんとうは何重にも偏光眼鏡を通したイメージでしかないということはないだろうか。少なくとも私の場合はそうだった。

 アメリカ中間選挙の前に「沈みゆく大国アメリカ」の著者堤未果氏がテレビで、「結局どちらが勝利した方が日本にとってはいいのでしょうね」という司会者に、少し考えた後「共和党でしょうね」と答えた時には正直に言って私にはその真意が十分には判らなかった。
 「貧困大国アメリカ」シリーズなどでブッシュ共和党の政治を冷静かつ鋭くルポしていた著者のイメージが強かったためである。
 だが、この本を読んで解ったことは、著者の見解が変わったのでも何でもなく、変わったのはオバマの民主党でありアメリカ社会の構造だということだった。

 アメリカ版皆保険制度(オバマケア)は、日本の皆保険制度から見ると全く似て非なるものにゆがめられ、「チェンジ」に熱狂した庶民の感情は落胆に変わってしまっている。
 例えば、静かでリベラル色の濃いオレゴン州ですら、この州で発足した医療保険制度に請求したバーバラさんに届いた通知書は、「がん治療薬の支払いは却下されました。服用されるなら自費(ひと月$4000(¥4000ではない))でどうぞ。代わりにオレゴン州で合法化されている安楽死薬なら州の保険適用が可能です」というものであった。
 こういう話が、重箱の隅の例外的なことでなく、現代アメリカ合衆国の全地域で起こっていることをこの本は縷々ルポしている。
 命の沙汰も金次第の市場原理主義である。そして、その黒幕たちの次のターゲットが日本であることを事実を積み重ねてこの本は警告している。
 
 なお、日本国内で耳をすませば、TPPと歩調を併せながら、自公だけでなく、維新、みんな、次世代、そして民主の中の多くも同じ歌を歌っていることに背中が寒くなる。

 少し昔「労災保険の民営化」が問題になったことがあった。「自賠責保険にできて何故労災にできないか」「アメリカにできて何故日本でできないか」と騒ぎ立て、「規制緩和」「官から民へ」とマスコミも扇動した。
 あの時に阻止されていなかったら、日本の労災保険はオバマケアの大失敗と同じ運命になっていただろう。
 「医療や行政等々の社会的共通資本は市場的基準によって支配されてはならない」とは、先日他界された宇沢弘文氏の有名なテーゼである。
 堤未果著「沈みゆく大国アメリカ」(集英社新書720円+税)は騙されたと思ってでも購入して一読されるようお勧めする。ほんとうに著者の一連のアメリカレポートは奥が深い。どんな立派な新聞であっても、新聞だけでは私は物足りない。やっぱり書籍を読むことで頭の中が整理されていくような気がする。こんなん言うたらなんやけど。

  ※ 歳がいってからの体調のことを考えると、いつ何があるかわからいというのが実感です。同感だと思われるお方は「期日前投票」をしては如何でしょう。手続きはあっけないほど簡単です。
 今回の衆議院の比例選挙は政党名「日本共産党」と書く方法です。個人名は無効となるのでご注意ください。

0 件のコメント:

コメントを投稿